静岡県司法書士会は、令和7年9月1日付で、法務省の「民法(遺言関係)等の改正に関する中間試案」等に対し、2件の意見書を提出しました。本記事では、各意見書の趣旨と主な提言ポイントをわかりやすくご紹介します。
本記事のポイント
- デジタル技術を活用した新たな遺言方式(乙案・丙案)を軸に、真正性・確実性・通知性・低コスト化を提言
- 危急時遺言の動画・音声・テキスト活用や、撤回・変更の明確化など実装論点を整理
- 高齢者・デジタル不慣れ層にも配慮したアクセシビリティと運用の親和性を重視
意見書①:静岡県司法書士会 民事裁判IT化対応委員会 作成
(①[静岡]民法(遺言関係)等の改正に関する中間試案に対する意見)
支持する方向性:公的機関保管のデジタル遺言が鍵
民事裁判IT化対応委員会では、「誰もが自分に合った方法で遺言を遺せる社会」を目指し、デジタル技術を活用した新制度導入を強く支持しています。
特に、デジタルで作成した遺言を公的機関が保管する【 乙 案 】が最善だと考えます。これにより、遺言の真実性が確保され、「気づかれない遺言」のリスクを大幅に減らすことができます。
一方で、遺言者自身の端末保管(【 甲 案 】)は「見つからない」危険が高く、プリントアウト書面方式(【 丙 案 】)は既存制度で十分なため、支持しません。自筆証書遺言の押印維持や、柔軟な危急時遺言の必要性も支持しています。
主な提言ポイント(要旨)
• 電子証明書の有効活用:本人確認やデータの信頼性確保のため、電子証明書の活用を期待する。
• 「撤回擬制」の明確化:遺言書保管の取り下げをもって、遺言書自体を撤回したとみなすのが、遺言者本人の合理的意思である。
• 保管窓口は法務局に一本化:国の責任において一元管理されるべき。
意見書②:静岡県司法書士会 登記法研究委員会 作成
(②[静岡]民法(遺言関係)等の改正に関する中間試案に対する意見)
支持する方向性:乙案と丙案の併用
「乙案」と「丙案」の併用は、自筆証書遺言に伴う主要な課題を包括的に解消し、遺言制度をより一層利用しやすくすることを目的としています。これにより、遺言の偽造・変造・紛失リスクを公的機関による保管で極めて低く抑えられます。
また、遺言者の指図に基づき他者が遺言の全文を記録することや、ウェブ会議方式の活用を許容することで、遺言作成時の自書負担や物理的制約を軽減し、遺言者の利便性を高めます。この併用により、幅広い層に遺言作成の選択肢を提供し、遺言制度の普及に資すると考えられています。
主な各案に対しての評価のポイント(要旨)
• 他者による記録の許容: 【乙案】【丙案】遺言者の指図に基づき、他者が遺言全文を記録することを許容されれば、遺言者の利便性に資する。
• 専門家と証人の立会い: 意見書②は、【乙案】と【丙案】を併用支持する立場であるが、【甲案】についても採用を支持する意見に賛同できる余地があるとし、「真実性・真実性の担保」として証人の資質を最も重視し、その一環として遺言の作成(録画・録音)の場面に法律専門職(弁護士・司法書士等)などの証人が立ち会うことを提言している。
• 高齢者やデジタル機器に不慣れな利用者への配慮を求める: 【乙案】は遺言を作成する高齢者にとって、パソコンやスマホ等で作成できる新方式は利便性が高い一方で、【乙案】の電子署名やオンライン申請の制度設計には配慮が必要。現行法にもっとも近い【丙案】は、高齢者との関係では最も親和性が高い。
まとめ
民事裁判IT化対応委員会は、デジタル遺言を法務局で一元保管する乙案を最善とし、電子証明書の活用・保管取下げ=撤回の明確化を提案。甲案(端末保管)は発見困難、丙案(プリントアウト書面)は既存制度で足り支持せず。保管窓口は法務局に一本化すべきとしています。
登記法研究委員会は【乙案】(オンライン保管)と【丙案】(書面持込保管)の併用を支持。これにより遺言者の負担を軽くし、選択肢を広げることができるため。一方、【甲案】(証人立会と録画)も賛同の余地があるとし、真実性担保の観点から法律専門職の関与を求めています。