被相続人の所有物件全部の名寄せを特定できない問題について

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執筆者:中里功 浜松支部

私が受任した相続登記について、被相続人の所有物件全部の名寄せを特定できない事象が生じました。

令和6年4月1日の相続登記義務化の施行を目前に控えたこの時期に、所有者不明土地解消どころか、むしろ所有者不明土地の温床である相続登記漏れの不動産を続出させる緊急事態と考え、【別紙①】のとおり浜松支部長として浜松市に申入れをしました

今般、県内の他の市町でも同様の現象が生じているとの情報を耳にしましたので、情報共有の目的で浜松市における経緯を整理します。

+++【別紙①】+++++++++++

令和5年5月8日

浜松市・担当部署 御中

静岡県司法書士会浜松支部

支部長 中 里  功  

固定資産評価通知書について協議のお願い

 日頃は県司法書士会の活動にご理解ご協力を賜り、深謝申し上げます。

 さて、司法書士は日々、市民の皆さんからの依頼を受け、業として不動産の相続登記申請手続きに従事しております。

 相続登記の申請に際しては、登記漏れを可及的に防止する趣旨から、被相続人名義の不動産を網羅的に調査するため「被相続人名義の所有物件全部に関する評価通知書」の交付申請を行うのが通常です。

この場合、たとえば令和5年5月に上記交付申請をしたとき、令和5年度の評価通知書の作成基準日にあたる令和5年1月1日以前に既に死亡し、その相続人から貴市に対し固定資産税の納税義務者変更の届け出がなされている場合であっても、令和4年度までは「台帳名義人」として被相続人の氏名が表示されていたため「台帳名義人」による名寄せによって被相続人名義の所有不動産を遺漏なく調査することが可能でした。

ところが、令和5年4月1日以降、同様のケースで「該当なし」との回答を受けるケースが相次いでいます。同日以降に交付される評価通知書では、「台帳名義人」の記録が表示されておらず、各不動産の備考欄に「何某名義」と被相続人の氏名が表示されるにすぎません。

被相続人の氏名が、各不動産の備考欄への記載事項のひとつに変更されたことから、令和4年度までのような「台帳名義人」による名寄せができなくなったことが、「該当なし」との回答につながっている要因であろうと思料いたします。

もちろん、物件を一つ一つ特定して交付申請をすることで評価額を知ることは可能ですが、この方法では相続登記に際して登記漏れを完全に防止することはできません。

登記漏れを防止するためには、従来の方法による評価通知書の交付申請に代えて名寄帳の交付を求める対応も考えられますが、評価通知書は無償であり、かつ司法書士の職権により交付を受けられる一方、名寄帳は有償であり、かつ司法書士の職権請求が認められていないため相続人の委任状を徴求する必要があり、相続人に余分な負担を課すこととなるうえ迅速な登記の処理が損なわれる要因となります。

ご承知のとおり、令和6年4月1日から相続登記が義務化されるため、登記漏れは単なる手続的瑕疵に留まらない義務違反状態を作出することとなります。よって、令和4年度までの取扱いのとおり、台帳名義人による名寄せを可能とする取扱いに戻していただくことが急務であり、かつ市民にとっても登記義務違反を作出しないという点において改正法の精神に適う有用な要請であると考えます。

以上について協議をお願いしたく、申し入れます。

 浜松市との協議の結果、以下の事実が判明しました。

+++【協議結果①】+++++++++

1 このような事情が生じた原因は、所有権登記名義人が死亡した後の固定資産税を死者の代表者宛てに請求するという従来の方法から、現に不動産を管理する相続人代表者宛てに変更することが国の方針として数年前に示されており、これが令和5年度からスタートしたことに伴うものである。

2 対象は「令和3年に死亡した者」に限る。

  令和4年に死亡した者については、令和6年4月1日から交付される評価通知について同様の現象が生じる。以下、1年ごとに順次更新されていく。

  令和2年以前に死亡した者については、相続人から「現所有者の届出」がなされない限り、従来の取扱いのままである。

3 なお、令和3年に死亡した者については、相続人から「現所有者の届出」がある場合だけでなく、市が職権で、相続人の一人を「現所有者」とみなす取扱いもある。

4 台帳の管理そのものが変更されたため、評価通知に限らず、評価証明も名寄せも、すべて同じ。

5 従来、台帳名義人で検索ができたが、「備考欄」に表示された死亡者名義での検索はシステム上、不可

要約

つまり、「令和3年に死亡した者」(以下、「亡A」とする)について「所有物件全部の評価」と申請した場合、市の台帳では、亡Aが所有する不動産は存在しないから、仮に登記上の所有者が亡Aであっても「該当なし」となる。評価通知だけでなく、評価証明も名寄せも「該当なし」である。
 登記上亡A名義の不動産は、相続人(以下、「B」とする)が現所有者として届け出られた(あるいは市が職権でそのように認定した)場合、市の台帳上は「B」の所有物件となる。
 ここでBの名寄帳の交付申請をすれば、①登記上もB名義である不動産、②登記上は亡A名義の不動産、の双方が一覧で掲載され、②については備考欄に「亡A名義分」と記録される。
 相続登記の遺漏をなくすために「亡A」で検索したいが、その術はないというものでした。

浜松市もこの状況が所有者不明土地の防止につながらないこと、相続登記漏れの要因となることは理解したため、次回協議までに「亡A」による検索を何らかの方法で可能とできないか対応してもらうこととなり、その結果が【協議結果②】。

+++【協議結果②】+++++++++

1 評価通知(評価証明、名寄せは除く)に関して、現所有者の届出がなされていたとしても、台帳名義人(不動産登記記録上の名義人)の氏名で申請すれば、台帳名義人(不動産登記記録上の名義人)の所有物件についてすべて表示された評価通知を発行する運用を、令和5年7月3日から開始する。

2 ただし、未登記建物についてはこの検索に引っかからない

浜松支部として、引き続き協議中です。